これまでの物性物理学においては、単一物質系を対象とした研究が主流でした。
本研究室では、物質と物質を組み合わせる(接合系)、あるいは物質を
表面修飾したりインターカレーションすることで、人工物質を作り出し、
新奇(スピン)エレクトロニクス機能を開拓することを目指します。


(i) 接合系におけるスピン流物理

スピントロニクスというのは、「電子の電荷だけでなく、電子のスピンや磁気モーメントを利用したエレクトロニクス」であり、
スピンを新たな自由度としてデバイス利用することで、エレクトロニクスより効率的なデータ集積や移送が期待できることから近年盛んに研究がなされています。
スピントロニクス研究の発展は著しく、急速な勢いでその基礎学理が構築され、今やスピントロニクスは磁性研究の一分野となっています。
スピントロニクス技術のデバイス応用の方向性は幾通りもありますが、基礎物理としてみた場合に特に重要なスピントロニクス概念は「スピン流」と言われるものです。
スピン流は、(スピン)角運動量の流れであり、電荷の流れである電流と対比させて説明されます。スピン流と電流を端的に表した図は以下のようなものです。


厳密にいえば、スピン流は伝導電子の流れに留まらないより一般的な概念ですので、上記の図は現在では不十分です。しかし、スピン流をデバイスとして利用する効用は
この図を見れば明らかです。つまり、エレクトロニクスデバイスを動作させるのに必要な電流をスピン流に置き換えることで、ジュール熱の発生を抑えることができます。

スピン流の研究においては、磁性体|非磁性体の接合系が主な対象物質となります。研究室主催者は、これまで様々な物質系(酸化物、合金、トポロジカル絶縁体、超伝導体、
量子スピン液体、スカーミオン磁性体 etc)の接合系で新奇なスピン流現象を見出してきました。
これまでの物性物理学・化学の研究成果の蓄積によって、世の中には面白い性質を示す物質材料が数えきれないほど知られています。
その機能を有効に活用するために、更には今までに無い機能を生み出すために、スピン流物理を中心とした接合系における実験研究を行っています。



(ii)修飾系(表面修飾やインターカレーション)における(スピン)エレクトロニクス機能開拓

薄膜材料においては、表面修飾による近接効果によってその物性を変調することが可能です。物性物理学における近接効果の代表的な例として、
超伝導体|磁性体やPt(Pd)|磁性体の接合系が知られています。本研究室では、物性物理研究における新しいアプローチとして、
キラル有機物などを用いた表面修飾による新奇スピン流機能の開拓を目指しています。
また、表面修飾に加えて、層状物質に対する相間修飾(インターカレーション)も、新奇物性を開拓するのに有効なアプローチです。
インターカレーションによる結晶対称性の制御や、元々の物質では発現しなかった隠れた”物性の開発を目指して研究を行っています。