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OUR RESEARCH
“NEXT-GENERATION” SOLID STATE PHYSICS
【2024年度 研究室パンフレットはここをクリック (PDFが開きます)】
2024年度の情報については下記ビデオもご覧ください。
塩見研究室オンラインガイダンス動画(2024年4月)
物性物理学、スピントロニクスの実験研究
最近のキーワードの例:磁性、スピン流、トポロジー、磁気圧電効果、多極子、量子液晶(ネマティック秩序)、相変化材料、水素吸蔵、超伝導
塩見研では、磁性体(磁石)を中心とした量子物質開発と物性測定を行っています。 次世代スピントロニクスの基盤技術となる基礎研究成果を得ることを目標にしています。我々の研究室は特に、スピントロニクスと隣接分野との境界領域での研究に特色をもっています。最近では例えば、相変化記録技術との融合や、クリーンエネルギーである水素を用いたスピン物性変調を達成しています。
本人の興味に応じて、主として試料合成を行うか、物性測定を行うかの選択ができます。 また、計算用PCを用いてバンド計算やマイクロマグネティクス計算などを行い、実験結果の解析も行っています(念のためですが、全員が計算をやらなくてはいけないという意味ではありません)。 上の絵を見て興味が湧くものが一つでもあれば塩見までお問い合わせください。
試料合成においては、バルク物質合成(FZ法,ブリッジマン法 etc)、薄膜物質合成(スパッタ法 etc)、ナノワイヤ合成(CVD法 etc)を行っています。 また、磁性体と超伝導体薄膜との異種物質接合や、金属表面への有機分子修飾などにも興味があります。 マスクレス露光装置や共同利用のフォトリソグラフィー装置などを用いて、マイクロ~ナノスケールのデバイス加工にも取り組んでいます。
物性測定は、スピン流物性測定(電磁石 etc)、熱電効果測定や低温強磁場下における磁気輸送現象測定(超伝導マグネット etc)、低温下の圧電効果測定(レーザードップラー振動計 etc)、光学測定(電磁石+窓付きクライオスタット)などを行っています。 トポロジーや量子液晶といった物性物理学の最新キーワードに関係する新奇物性の探索や、スピントロニクスに重要なスピン流物性の開拓に取り組んでいます。 共同利用設備として、磁気特性測定装置(MPMS)などもあり、詳細なスピン特性の計測を行っています。他機関の大型実験設備として、東北大学金属材料研究所の強磁場センターや、KEK、原研などへの出張実験も行っています。
実験結果の解析には、自作の計算用PCやスパコン(学内利用)を利用してバンド計算やマイクロマグネティクス計算も行っています。 機械学習の利用にも積極的に取り組みたいと思っています。
研究室の活動としては、月に一度の研究進捗ミーティングに加えて、教科書の輪読やJournal Club(論文紹介)を定期的に行っています。輪読・Journal Clubおよび研究室のイベント(大掃除や忘年会など)は学生が主体的にアレンジしています。
塩見研の研究活動のイメージが湧くように、以下に研究テーマの例をいくつか紹介します。
ナノワイヤ物質の合成と物性
バルク材料から薄膜材料まで様々な物質試料を作製するなかで、最近注目しているのがナノワイヤです。 バルク材料(3次元構造)や薄膜材料(2次元構造)の物質合成は、様々な材料系に対して手法が確立されていますが、 1次元構造を有するナノワイヤ試料の合成手法は一部の半導体試料などに限定されています。 物理において次元性は大変重要ですので、種々の物質系のナノワイヤ試料が得られれば新しい物性機能が開拓できます。 トポロジカル物質を中心とした物性物理材料のナノワイヤ作製とスピントロニクス応用にチャレンジしています。
【参考文献】”Quantum oscillations from Fermi arc surface states in Cd3As2 submicron wires” Phys. Rev. Research 4, L022002 (2022)
磁性を有する熱電材料の開発とスピンカロリトロニクス機能
熱電効果は電気エネルギーと熱エネルギーの変換現象であり、排熱から電気エネルギーを創出できることから産業的にも注目されています。 我々は基礎研究の立場から、磁性元素を含んだ熱電材料の開発と、磁性制御による熱電効果の制御に取り組んでいます。 また、新たに見出した新物質材料におけるスピンカロリトロニクス(熱とスピントロニクスの新しい融合研究領域)機能開発を目指し、スピンゼーベック効果などのスピン流輸送測定も行っています。
【参考文献】”Anisotropic Magneto-Seebeck Effect in Antiferromagnetic Semimetal FeGe2” Phys. Rev. B 104, 115109 (2021)
【参考文献】”Reconfigurable single-material Peltier device consisting of magnetic-phase junctions” Sci. Rep. 11, 24216 (2021)
スピン流を用いた水素センシング
脱炭素社会に向けて、水素はクリーンなエネルギーとして注目されています。我々はスピントロニクスの水素技術への貢献を目指し、水素化によるスピン流物性の変調を研究しています。 これまでに典型的な水素吸蔵合金であるPdと磁性絶縁体YIGの接合構造において、水素化によりスピンゼーベック効果やスピンホール磁気抵抗効果が半分程度の大きさになることを示しました。 スピン流信号の減少の物理的要因の解明に加え、可逆的な水素変調を用いた新しいスピントロニクスデバイスの実現を目指しています。
【参考文献】”Modulation of Spin Seebeck Effect by Hydrogenation”Appl. Phys. Lett. 120, 072405 (2022)
相変化物質科学
相変化材料は、結晶とアモルファスの間の物質の相変化の際に生じる反射率や電気抵抗率の変化を0と1に対応させた相変化メモリとして利用されています。 我々は、相変化材料を相変化「物質」として物理的に見直すことで新しい物性や物質機能を探索しています。例えば、物理における相変化は結晶-アモルファスの相変化に限らず、磁気相転移なども含む非常に広い概念です。 相変化物質の概念を広げることで新しい物質機能を得られる可能性があります。また、相変化に伴って反射率や電気抵抗率以外の物性変化も期待されるため、相変化に伴う物性変化を様々な角度から調べています。
【参考文献】”Phase-Change Control of Anomalous Hall Effect in Ferromagnetic MnBi Thin Films” Appl. Phys. Lett. 121, 262402 (2022)
アモルファス化による“モット転移”
塩見研では大型実験設備を利用することで、実験室では実現できないような新物質機能の開発も行っています。原研のタンデム加速器を用いて高エネルギーの重イオンビームを単結晶試料に照射することで、構造が強く乱れたアモルファス状態を作ることができます。我々は二次元強磁性半導体CrGeTe3に対してXeイオンを照射しアモルファス化すると、絶縁体金属転移が起きることを示しました。アモルファス金属状態は結晶よりも3倍程度高い磁気転移温度をもちます。他グループによる単結晶におけるモット転移の研究においても転移後に磁気転移温度の高い強磁性金属状態が得られており、我々が実現したアモルファス化による絶縁体金属転移は‟モット転移”と見なせる可能性があります。KEKにおける局所構造測定なども用いて非自明なアモルファス強磁性金属状態の物理を追求するだけでなく、物質展開によりアモルファス超伝導の実現などの新奇物性開発を進めています。
【参考文献】”Amorphous Ferromagnetic Metal in van der Waals Materials” Adv. Electron. Mater. 10, 2300609 (2023)
スピンホール効果などの電流誘起磁化の磁気光学イメージング
スピントロニクス分野では、電流とスピン(流)の間の相互変換現象が広く研究されてきました。その代表例がスピンホール効果やエデルシュタイン効果と呼ばれるものです。 一方、対称性の破れに起因した現象は広く物性物理において研究されてきており、対称性の破れにより電流で磁化が発生する現象は電流誘起磁化と呼ばれています。 我々はスピントロニクスのみならず物性物理学の広い分野で注目されている電流スピン相互変換現象を深く理解するために、非接触で高感度なスピン蓄積測定が可能な磁気光学イメージング装置を開発し研究を進めています。
【参考文献】”Enhancement of Current-Induced Out-of-Plane Spin Polarization by Heavy-Metal-Impurity Doping in Fe Thin Films” Phys. Rev. Applied 16, 054001 (2021)
伝導系材料の圧電効果
圧電効果は、電気エネルギーと機械エネルギーの変換を可能にし、センサやアクチュエータなどに用いられています。 圧電効果は、伝導電子が存在すると著しく弱められるため、これまで絶縁体物質でしか起きないと思われてきました。 我々は、超イオン伝導や磁性といった新しい自由度を付加することで、伝導系材料の圧電効果の開拓を目指しています。 圧電特性、磁性、伝導性を兼ね備えた複合機能材料が得られれば、電子回路に組み込むことで、 新しい(スピン)エレクトロニクス機能が開拓されます。
【参考文献】”Giant Piezoelectric Response in Superionic Polar Semiconductor”Adv. Electron. Mater. 1800174 (2018)
【参考文献】”Observation of a Magnetopiezoelectric Effect in the Antiferromagnetic Metal EuMnBi2“Phys. Rev. Lett. 122, 127207 (2019)
トポロジカルスピントロニクス
電子の電荷の自由度に加えてスピン自由度を利用するスピントロニクス分野において、スピン流に注目して研究しています。 特に、素子の省電力化に有利な性質を有すると目されるトポロジー概念に基づく新奇スピン流機能の開拓を行っています。 トポロジカル絶縁体などのトポロジカル物質や、ベリー位相に関係した巨大なスピン流-電流変換を利用した 次世代のスピントロニクス素子の開発を目指しています。
【参考文献】“Spin-electricity conversion induced by spin injection into topological insulators”Phys. Rev. Lett. 113, 196601 (2014)
【参考文献】”Efficient Edelstein effects in one-atom-layer Tl-Pb compound” Appl. Phys. Lett. 113, 052401 (2018)
量子物質や超伝導体における非相反応答
単一物質において反対方向の電流に対して電気抵抗が異なる非相反応答は、整流素子やAC-DC変換器として利用できます。我々はトポロジカル物質の一つであるワイル半金属WTe2において、巨大な非相反応答を観測しました。フェルミ準位がワイル点に一致したときにトポロジカル効果が最大化され、非相反応答の大きさも最大値をとります。その他の物質として、超伝導体の超伝導ボルテックスに由来する非相反応答の研究や、熱電効果(ゼーベック効果)の非相反応答の研究も進めています。
【参考文献】”Giant Magnetochiral Anisotropy in Weyl-semimetal WTe2 Induced by Diverging Berry Curvature” Phys. Rev. Lett. 130, 136301 (2023) (Editors’ suggestion)